映画『娼年』公式サイト

欲望の秘密を描き切るために—

原作/石田衣良

1960年、東京生まれ。成蹊大学卒業後、コピーライターなどを経て、1997年『池袋ウエストゲートパーク』で作家デビュー。同作は第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞。ドラマ化もされ大きな話題を呼んだ。2001年『娼年』、2002年『骨音』の2作が2年連続直木賞候補作となる。2003年『4TEEN』で第129回直木賞を受賞する。2006年『眠れぬ真珠』で第13回島清恋愛文学賞を、2013年『北斗 ある殺人者の回心』で第8回中央公論文芸賞を受賞。他に「スローグッバイ」「愛がいない部屋」「美丘」「sex」などがある。本作「娼年」は、「逝年」「爽年」と3作品へのシリーズの第1作目である。

ぼくはまだデビュー作の『池袋ウエストゲートパーク』を始め数冊を世に送ったばかり。でも同じようなものを書くのは嫌だな。そこで選んだテーマが「現代の愛と性」だった。なぜか理由はわからない。だがベッドシーンを描くと、急に文章に精彩がのる不思議な性癖があったのだ。そこで全篇ベッドシーンで構成された長篇を書こうと決めたのである。 お茶の水のホテルのカフェで、紙ナプキンに「タイトルはこれです」といって『娼年』と万年筆で書き、担当の編集者に滑らせたのはいい思い出である。その場で即採用された。大学生の娼夫がたくさんの女性と性の仕事をしていくなかで、ひとりの人間として成長していくストーリーです。セックス表現からは絶対に逃げないで書きたいと思います。そんなふうに説明した覚えがある。

結果的に『娼年』は、ぼくの初めての直木賞候補となり、自分が選んだ方向が間違っていなかったことを教えてくれた。性を大切にする洋の東西の国、フランスとタイでも翻訳されている。いい趣味だ。ぼくは職業作家なので、あらゆる種類の世界中の小説を読んでいる。けれど『娼年』のような作品は、一冊も類書を思いつかない。それだけのオリジナリティがこの一冊にはあったのだと思っている。 その記念作が十七年のときを経て映画化された。監督・脚本は三浦大輔さん、主演は松坂桃李くんである。演劇好きならこのコンビで去年の演劇界の話題をさらった舞台『娼年』はご存知だろう。舞台表現の限界への挑戦と、当日券を求める行列の長さに驚愕したのは記憶に新しい。

そのふたりに実力派の女優陣をそろえて、つぎは映画化をすすめたい。そうきいたときすでに否応はなかった。きっとこれまでの日本映画とは異なる色の大人の映画を撮ってくれるだろう。そう確信したからだ。

確信に誤りはなかった。映画『娼年』には現代を生きる人間の性の切なさと欲望が、割れたばかりのガラスの断面のように青く鋭く満ちている。この映画を観て、人が生きるうえでの根源的な力となる「性」を、もう一度考え直してもらえたら、作者としてこれほどうれしいことはない。現在の豊かでインスタ映えするニッポンで、なにより足りないのはまっすぐな欲望と幸福な性であると、胸をえぐられながら再確認するはずだ。